ザックス=ホルンボステル分類
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楽器分類学(がっきぶんるいがく)は、楽器を体系的に分類するための学問である。比較音楽学の一部である比較楽器学を基礎とする。現在は、ザックス=ホルンボステル分類をもとに、体鳴楽器膜鳴楽器弦鳴楽器気鳴楽器電鳴楽器の5つに分類するのが一般的である。同じような意味で「楽器分類法」ということばが用いられることもあるが、こちらは学問的考察によらず、歴史的な経緯で用いられている分類を意味する場合が多い。
概要

西洋音楽あるいはオーケストラでは、伝統的に楽器を管楽器弦楽器打楽器に分け、さらに管楽器を木管楽器金管楽器に分類している。しかし、管楽器の「管」は楽器の形態による分類であり、弦楽器の「弦」は音を出す振動体による分類であるし、打楽器の「打」は奏法による分類である。木管/金管は楽器の材質による分類である。「鍵盤楽器」という分類もあるが、「鍵盤」は音を出すためのメカニズムの形態を表しているに過ぎない。つまり旧来の楽器分類法は、一貫した分類基準に基づくものではないのである。クルト・ザックスは、「これはちょうど、アメリカ人をカリフォルニアの人と銀行家とカトリック信者に分けるのと同じ」であると述べている[1]

このため、たとえばピアノは「鍵盤」によって「弦」を「打」って音を出すのだから、鍵盤楽器であり弦楽器でもあり打楽器でもあるということになり、その一方でオルゴールはどの分類にも該当しないことになる。今日のフルートはほとんどが金属で作られているにもかかわらず、「唇の振動を用いないエアリード式の楽器であるから」という、材質とは何の関係も無い理由で木管楽器に分類されている[2]が、金属でできているのに木管楽器では筋が通らない。さりとて金管楽器は英語では「Brass instrument(真鍮製の楽器)」であるから、洋白などで作られることが多いフルートは、金管楽器に含めることもできないことになる[注釈 1]。日本語における「Wind instrument ⇒ 管楽器」という誤訳も問題であり、「オカリナは管楽器ではない」といった誤った主張が見受けられる[3][4]し、チューブラーベルは、その名称からして明らかに「管」楽器なのに、なぜ奏法に基づいて打楽器に分類するのかといった疑問を生む。

このように、旧来の楽器分類法は歴史的経緯から半ば自然発生的に生まれたものなので、それなりの存在意義がないわけではないが、恣意的・非論理的であって、あらゆる楽器を体系的に分類する方法としては適していない。

19世紀後半のヨーロッパにおいて、東洋やアフリカなど西洋以外の楽器が収集されるようになると、博物館などは収蔵品の分類目録を整備する必要に迫られたが、旧来の分類法では役に立たないことが明白であった。そこで、世界各地の民族楽器を比較・研究する比較楽器学をもとに、科学的・論理的な分類方法を研究する楽器分類学が成立した。これまでのところ統一した分類基準を確立するまでには至っていないが、「ザックス=ホルンボステル分類」が広く知られており、博物館などで実際に使われている分類は、これを応用したものが多い。
歴史

楽器を分類することは古くから地域ごとにおこなわれてきた。

中国では楽器をその素材によって、金・石・糸・竹・匏・土・革・木の8種に分類し八音と呼んだ[5]。通常は雅楽の楽器に対して使うが、陳暘『楽書』では胡楽や俗楽の楽器も八音で分類している。一般にはより簡明な「金石糸竹」[6](金石が打楽器、糸竹が弦楽器と管楽器)、「糸竹管絃」[7]のような分類が行われた。日本の雅楽では「打物・弾物・吹物」のような演奏方法による区別が行われている[8]

インドでは、世界最古の舞踊・音楽の教典「ナーティヤ・シャーストラ」(2 - 5世紀)で弦楽器、気楽器の2種に分けた。仏教では、片皮・両皮・前皮・打・気の5種音楽(弦なし)に分類し、ジャイナ教では皮楽器・弦楽器・金属打楽器・気楽器の4種に分類した。13世紀の舞踊理論書「サンギータ・ラトナーカラ」第6巻で弦楽器・管楽器(または気楽器)・皮製打楽器・金属製打楽器に分け、インドの4分類法が確立した。

アラビアでは哲学者・音楽学者アル・ファーラービー (897? - 950) が「打奏し、弾奏し、摩奏する固体の楽器」と「吹奏される空気を満たした楽器」の2つに分類した。

ヨーロッパでは、16世紀にヴィルドゥングが管楽器・弦楽器・打楽器の3分類法を考案し、これが一般には現在まで用いられている。1888年、ブリュッセル楽器博物館の館長であったマイヨンは、自鳴楽器・膜鳴楽器・気鳴楽器・弦鳴楽器の4種をさらに形態と奏法によって分類する体系を作成し、多くの非西洋楽器を含む世界の楽器の分類を行った。これは、インドの4分類法にヒントを得たと考えられている。

これを1914年にドイツのエーリッヒ・フォン・ホルンボステルとクルト・ザックスが拡張したものが「ザックス=ホルンボステル分類」で、マイヨンが自鳴楽器としていたものを体鳴楽器と改めた上で、全体を300あまりの項目に細分化したものである。その後、ザックスはこの分類に電鳴楽器を追加して5分類とした。

他にもザックス=ホルンボステル分類を修正したものや、さらに細分化したものとしては、ハンス・ドレーガーによるもの、ノルリントによるものなどがある。また、フランスのアンドレ・シェフネルは、上記のアラビアの分類を基にした次のような2分類法を1936年に提案している。

可動固形楽器


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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